金雀枝

明るい窓辺に添えられた希望のえにしだ

手折られて束ねられ

僕らを簀巻きにする環境倫理

共同体からの隔絶はなお根深く 

僕の説諭にちからはなく

こぶしに血が滲むまで叩くのか

夜ごと問われるおきての門を

夜ごと供えられるえにしだと檸檬色の花束を

どう猛な香辛料を含んだ、攻撃的な酸素の群れが

血気盛んな申し子たちが

世間体積の膨満として囲繞し 

僕の血を流れるわずかな鉄はおびえ酸化した

関節は錆びに錆びた

指先からくるぶしに至るまで悉く

振り払わなくちゃならないこの惑星の大気を

真夏のデリーのような熱風が僕にはつらすぎるから

僕のひょろっとした放熱板ではもうこの廃熱を抑えきれないから

できれば君を連れてゆきたいけれど 

今となっては無理な相談さ

振り切らなくちゃならないこの惑星の重力を

僕にはきつすぎるしがらみだから

山奥の共同体の不文律みたいに僕を縛りつけてくるから

ともだちやこいびとやかぞく

君たちと離れるのは寂しいけど

できれば君たちとは別れたくなかったけれど

ああてんでだめな未練だ

ここに来て僕も君もとんだめそめそ野郎だ

なにしろ行きたくなくても行かなくてはならないんだ

なら行くさ行こう

お別れだいとおしい人もいとおしくない人もひっくるめ

地球生命よ君たちにはずいぶん世話になったなあ

生まれた大地そのやさしいくろ土を強く蹴って飛び立とう

僕の持ちうる宇宙速度のすべてをそのためにつぎ込んでやる

激しくおのが全存在を射出してやれ

月よ僕を二度とつれ戻すな

太陽よこの星系のくびきから僕をのがしてくれ

加速して

加速しろ

どこまでも遠く僕の内なる銀河へ

晩餐

豚の晩餐会に誘われた

それは一種の名誉と考えられた 

赤い封蝋を捺した角封筒

ひび割れた蹄の印を剥がした

牧草の漉き込まれた便せん

几帳面な筆記体

荘園領主のマナーハウスへつづく蛍火の垂れる畦

芽吹きを胚胎する暗緑色の森

苔の手土産を蔓草で結わえ

ゆくだろう 浮世離れした木漏れびとの妻をたずさえ

杜松の瘤から生まれた木偶のわが子を抱きかかえて

木の瘤

子豚

三本足の豚 

足下にまとわりつく無数の豚たちが

僕らを歓迎した、そののち僕らを拒絶した

僕らの正装はみすぼらしく、領主の晩餐に似つかわしくないと

見くだされた判断は

烙印として僕らの皮膚を灼いた

燭台のろうそくの火が揺らぎ、食卓の空気がおもったるく粘度を増した

柱時計の振り子が融点を迎えしたたり落ちてゆく

僕の脂汗が皿に落ちてラードの泪と化した 

妻の存在が薄らぎ

子どもらが癪を誘発し苔を吐いて粗相をした

彼らの流儀に従うため

僕らは喉のとげとげしさを抑える整涼剤を飲んで

飼い葉を平らげるため

三角形をした酵素剤を六錠飲んだ

つまるところ客人としての正当な接待を渇望した

あるじの嫌味で上品な笑顔

ナプキンでぬぐわれるぬれた豚鼻先 

推し量られるすべてを探るための血走る眼球

天秤の分銅と釣り合うまで歪めあう晩餐のひととき

時間だけが流れを淀ませてゆく

止水域

 忌み者の沼に僕らは沈んだ

糸引く藻類の聯想 とめどなく繋がれる数珠の追憶

離れるな、蔭人のたくらみが

奸計が僕らの絆を

毀損しようと 

光の

光射さない水深へ

声が底打つ止水域の

汚泥とデトリタスとしてやわらかく舞踏する生活へ

営んでいきたい、今ふたたびの再生を

一本のともしびを水中花としてこごえる掌を焙る日々を

分け合う熱の冷め遣る夜半に

世界から疎んじられた重力のくびき

ミドリ水で洗う

破れた鼓膜にさした一条の血のすじ 

青ざめている 君の血の色に似ていて

失戀

毀たれた恋心が僕のまぶたを引っぺがした

孔雀石のかたちをした想い

簾をすかして吹く午睡の吐息と

まなつの夜のプールの  塩素錠剤で満たされた暗夜の藍青と

未熟のまま落果した渋柿の色が混じり合い

腹這いで袖を滑り止めにしてひねるあんずジャムの壜を開くと

トーストの焼けるにおいが台所にたちこめて

夜通し泣いた後のぐずぐずの味がした

セーターの襟ぐりから僕の恋心は逃げるとして

それはきっと縫われた糸のほつれ目で

繊維を引っ張ってゆくうちに

自然と編み目が泣きくずれてゆくもので

なんてことはない風邪のひきはじめの微熱によく似ている

金平糖ワルツ

ガス状星雲を混ぜてつくられた糖蜜に

赤や白や黄色をしたざらめの星が爆発した

それらの矮星は子供たちの口のなかの宇宙で攪拌され

舌先でねぶられざくざくした砂糖片として咀嚼されて

喉奥で一生を終える運命なのだが

なかには気骨に富んだ反抗心を具有するやつがおり

子供たちが菓子袋を逆さまにした際にひときわ高く弾けて

自らの道を切り開こうと企んだりする

そうしたこがねの精神の持ち主が われわれの中にも少なからずおり

彼らの輝くざらめの太陽が 道すじとなって

今宵もまた天道を真っ赤に燃えながら駈けてゆく

花粉

石蔭から引きずりだそうというのか

報われぬ横着者の住む桟橋の下に

健やかに保たれる花嫁を焼く村の共同窯

心くるおしくも胸かき乱される渡来人たち その末席の

かみつれの薫付きろうそくに灯れ

凍てつく冷たい炎

不感症のおまえの手のひらを灼くほどの

大沼

弥栄そこは閑かな沼地で

泥にまみれたわれわれがいつか還る場所だ

たどれ 草葉に覆い隠された巡礼の道を

おまえの信じる愛情の雫が慈雨として降り注ぐものならば

行き着く先を求めるのならば

おまえは達しうるか 

煮える瀝青を浴びる牧人の衣服のあまりに青すぎる青

三本の臍の緒がおまえの細い喉へと絡みつく

龍の巓

木蔦の絡んだ牢獄のキチン質の苦しみ

暗い木目の格子ごしに視る奪取されし日だまりの

広場きつくコントラスト白く消し飛んだ街

僕ら手を取り合い渉猟した

夏の残滓 青灰色の入り江を

おまえ おまえの喉を流れるきよ水を

汲め汲めどもすくえないのなら

僕は飛竜を呼ぶいっぽんの象牙の笛となろう

僕らを砦へと運ぶ

あの竜をまつろう笛になろう

倦怠

呑気症の孤独 胃袋の底へ溜まる空気は比重が重く

水銀のげっぷに食道がやられっぱなし

ひくつく喉 卑屈なめらかな飴で喉をうるおし

ふくれあがる卑屈な胸の奥の小石は膠で固められ

塗りかためられ おどろおどろしく仰々しい

これが人生なんて

誰も彼もが一方通行だなんて