色を喪失した病室

 色を喪失した病室に横たえられ、わたしは天井を凝視した。

二等辺三角形を重ね合わせたような天井の幾何学紋様は、人の精神をかき立てる不実な要素があるのか、わたしは落ち着かずそぞろ体を起こした。
 多量のモルヒネで抑えこまれていた手首の痛みが閾値を超えて跳ね、苦痛のうめき声を洩らした。

脳天へ突きあげる強烈な痛みは、創口よりむしろ無事だった体内の奥深くから発せられるような気がした。包帯を巻かれた左腕を見る。

手首から先が不自然に丸めてある。神経がずたずたにひき裂かれ、

とうにわたし自身とは無関係になったはずのわたしの手の感覚が幻肢痛として感じられる。そうか、これがそうなのかと念押しするようつぶやく。
 この先死ぬまでこの痛みと付き合ってゆくのだからと、

しばらくやせ我慢をしてみたものの、切断された手首の痛みはますます耐えがたく高じて、

わたしは脂汗を垂らし口を半開きにし情けなく喘ぎながら枕元のナースコールをまさぐった。

頭皮の汗が滲んだ枕シーツの隙間に小さな押しボタン式の装置が隠してある。本来ベッドに設えてある装置がはずれてしまったのはわたしが無意識に弄ったのか。あるいは同室の入院患者が、

意地悪なナースが過失にならない範囲で隠したのか。安全な場所からわたしを観察する卑怯な敵。そう、やつらはこの病院のどこかに潜み、

今もよこしまな笑みを浮かべてわたしが苦しむさまを監視している。

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