虹色の油が浮かんだ水溜りの傍らで泥をすする
泥すすりは丁字路に這い蹲ってアスファルトの窪みに舌先を伸ばし
自動車油の淆じる水をじぶじぶと舐めた
僕の劣情を差し入れると
水飴のような唾液が煮こごりの愛となって暴発した
草むらの廃村から香る枯れ草が絡んで朝も夜も関係なく焼け落ちる患部
こうして営まれた日ごとの愛が重なって
数千日もの基底レイヤーを形成してゆくうち
僕らの内がわから本当の家族と呼べるものがあらわれた
それは一児の母となる彼女が やがては石や岩を噛んで
鋼の体を持つ我が子を育て上げる確信として
頑ななまでに信仰し かつ存在する紐帯なのだ
君が口から取りだしたべとつくかぶとむしを
僕は生涯いとおしむと決めた
その光沢のあるキチン質の君の舌苔の混じる唾液の
血痰と胃液のまりあーじゅの中にこそ
僕らの共同生活が築かれるべきだ
そこからが僕らの新しい朝が生まれるべきだ
すべての恋の群生相
汚穢と粘液としての小宇宙
枕に広がる黒髪にまぶされた情熱と埃
夜ごとの睦み しとけなくだらしなく交わされる唇のかさつき
ざらつくささくれを唾液でぬらした
黒蜜味のそれを