僕はまだ土地に根ざした活動をやりとげて
いないと感じる。僕の体は僕の住む土地に親水しない
根腐れを起こし、僕の体は腐敗した藻類として流れる水への抵抗を持たない
今かろうじて持ちこたえているが、大水が出れば砂礫と土砂に埋もれ
澱んだ水底でにおいもなく分解されてゆく運命だ
それでもいつの日か、僕はひたいに汗して肥沃なくろ土をたがやし
僕の植えた苗は群青を突く稲穂となって
重たく豊かに実るだろう
こがね色の稲田で働くのは、じつに僕の妻や娘たちだ
まっしろなワンピース姿の娘たちが手のひらを太陽で満たして騒ぐ
妻が僕の傍らで秋物のセーターを編む
僕は木陰に腰をおろし、冷酒を口にふくんで
ゆすぐようにして喉で心地よく味わう
その喉の清涼こそ家庭の味なのだ
そんな手すさびの空想を逞しうして、夜ごと枕もとで寝苦しくするうち
僕は根拠の十分な絶望にかられて
堪らなく苦しく叫びたくなるのだ