きつねとの別れのあと
埃の粒がおしろいめいて頬をぬらし 泪の跡が目立たなくなるのを歓迎した
なにしろかなしい出来事が多すぎたから
泣きくたびれすずかけ通りを南南東へ向かい
加密列のかおる国道沿いのバス停で道を尋ねた
黒ぐろとした影男たちは、迷い子に小さなプラスチック片を渡した
やがてバスが木炭の煤を吐きながら走ってきて
頭のてっぺんの栓を抜いて体から僻んだ拗ねた空気を放出した
しぼんでゆく体から おうど色の瓦斯が噴いた
くらくらしためまいと かすかな胸のざわつき
こんな見当違いの錯綜が常態だから
木化石のきつねにつままれて三かいに家もなく
都市空間を放ろうするのだろうか
えのはなに到着したら、その土地のあたらしい空気を買わなくては
きつねの鉱毒が混じらない
土地勘が濁らないまっさらな空気を吸い
何年先か 何十年先になるかはわからないが
この空間酔いさえ克服すればきっと私も道に迷わなくなるのだと
手のひらを固く結び
祖母から教えられたとっておきのまじないを唱えた